Topics

「離婚して結婚する」と言われたのに…約束を守らなかった相手に慰謝料は請求できる?

「離婚して君と結婚するつもりだ」と言われて関係を続けたのに、実際には離婚も結婚もしなかった…。そんなケースに直面したとき、「裏切られた」「騙された」と感じるのは当然のことです。では、こうした状況で相手に慰謝料を請求できる可能性はあるのでしょうか?

この記事では、既婚者からの“結婚の約束”が守られなかった場合に、どのような条件がそろえば損害賠償請求が可能になるのかを、裁判例をもとに解説します。

1. 結婚の約束だけでは、原則として慰謝料は請求できない

まず大前提として、日本では「既婚者と第三者の将来の結婚の約束」は法律上無効とされるのが一般的です。つまり、たとえ「離婚したら結婚する」と約束されていたとしても、その約束自体には法的な拘束力はなく、原則として約束を破られただけでは慰謝料を請求することはできません。


この理由は、一夫一婦制を原則とする日本の民法の立場によるものであり、既婚者が新たに結婚を約束することは「現時点で実現不可能な契約」として扱われるためです。

2.例外的に慰謝料請求が認められる可能性もある

もっとも、すべてのケースにおいて「結婚の約束=法的効力なし」と一律に判断されるわけではありません。実務上、以下のような法的構成により、例外的に慰謝料請求が認められる可能性があります。

(1)婚約不履行に基づく損害賠償請求



婚約は、将来の結婚を約束した契約関係と位置づけられ、正当な理由なく破棄された場合には、債務不履行責任または婚約者としての地位を侵害した不法行為責任に基づき、損害賠償が認められることがあります。

ただし、問題となるのが、相手方が既婚者である場合です。既婚者との婚約は、いわゆる「重婚的婚姻予約」として、公序良俗に反し、法的保護に値しないとされるのが一般的であり、原則として婚約の成立自体が否定されます。これは、既婚者が離婚しない限り新たに婚姻関係を成立させることができず、現時点で実現不可能な契約であると評価されるためです。

もっとも、例外として、既婚者の現婚姻関係が実質的に破綻しており、保護に値しないと評価されるような場合には、婚約として法的保護が及ぶ余地があるとする裁判例も存在します。たとえば、東京地裁平成29年10月18日判決は、「男性の婚姻関係を保護すべき実質的理由が消滅している場合には、婚約の法的保護が及ぶ可能性がある」との趣旨を示唆しています(ただし、同判決では具体的事実関係を踏まえ、婚約の成立は否定されました)。

したがって、相手方の婚姻関係が実質的に解消されていたなどの特段の事情があれば、婚約不履行に基づく損害賠償請求が認められる可能性があると言えるでしょう。

(2)「貞操権」侵害に基づく不法行為(民法709条)による慰謝料請求



仮に婚約の成立が認められない場合であっても、相手方の不誠実な対応により精神的・肉体的苦痛を被った場合には、不法行為に基づく慰謝料請求が認められることがあります。特に問題となるのが、「貞操権」の侵害です。

貞操権とは、「誰と性的関係を持つかを自分の意思で決定する権利」を指す人格的利益であり、相手が独身であると偽るなどして誤信させたうえで性的関係を持たされた場合には、この権利が侵害されたとして慰謝料請求が認められることがあります。

実際、既婚者であることを隠して婚活サイトを通じて女性と知り合い、「離婚するつもりがある」と信じ込ませて交際を継続したケースにおいて、裁判所が女性の貞操権侵害を認め、慰謝料の支払いを命じた例も存在します。女性が既婚である事実を知らず、相手方に欺かれた状況では、比較的慰謝料が認められやすい傾向にあります。

一方で、女性が交際当初から相手方が既婚であると知っていた場合には、原則として貞操権侵害の慰謝料請求は認められにくくなります。ただし、最高裁昭和44年9月26日判決は、相手が既婚であると知りながら交際した場合でも、女性側の不法の程度に比して男性側の違法性が著しく重大である場合には、慰謝料請求を容認し得ると判断しました。

すなわち、たとえ女性に一定の落ち度があるとしても、相手方男性の行為態様が女性の性的自己決定権を欺くほど背信的・悪質であった場合には、民法709条に基づく不法行為責任が認められ、慰謝料請求が認容される可能性があるということです。

3. 損害賠償が認められるかは、具体的な事情で大きく異なる

「離婚して結婚する」という約束を信じたのに破られた場合でも、そのすべてが損害賠償の対象になるわけではありません。裁判所は、交際の内容や期間、言動の具体性、精神的苦痛の程度などの事情を総合的に判断して、損害賠償の可否を決めます。以下に、実際の判断要素をもとに、慰謝料が認められやすいケースと認められにくいケースを整理します。



損害賠償が認められやすいケースの要素


・交際相手を独身だと信じていた期間が長いこと。
・出会いの経緯が婚活サイトや結婚紹介所など、相手が独身であることを前提と信じるに相当の理由がある場合。
・相手が既婚と判明した時点または不信を抱いた時点で速やかに関係を解消していること(既婚と知りつつ不貞行為を続けていない) 。
・将来の結婚を視野に入れた真剣交際であったこと(結婚の約束を信じて人生設計をしていた等)。
・交際相手が「必ず離婚する」「一緒に住もう」「結婚式を挙げよう」など、結婚を前提とした具体的な言動を繰り返していたこと。
・交際相手による積極的な欺瞞行為があること(例:独身と偽り通した、離婚協議が進んでいると嘘をついた、結婚式場の予約や婚約指輪の用意を見せかけた等)

損害賠償が認められにくいケースの要素



・交際相手が既婚者であることを承知の上で交際を始めていた
・結婚の話はあったが、具体的な約束や行動が伴っていなかった(例:「いつかは結婚したいね」程度の抽象的な言動)
・「離婚する」という発言があったのは一度きり、もしくは冗談・その場しのぎの発言と受け取られても仕方のない状況だった
・交際期間が短期間であった(数か月程度など)
・自分から積極的に交際を持ちかけた経緯がある
・相手が「すぐに離婚は難しい」「家族との関係もある」といった迷いや否定的な発言も繰り返していた
・自分側の行動や選択に強制された要素がなく、あくまで自主的な判断だったと評価される場合


このように、交際相手の言動の信頼性、交際の期間や深さ、あなた自身がどのような犠牲や選択をしてきたかによって、慰謝料が認められるかは大きく変わります。まずはご自身のケースに関して、事実を冷静に整理することが重要です。

4. 請求の際に注意すべきこと

仮に慰謝料請求を検討する場合は、相手の発言や交際の経緯を裏付ける証拠を集めることが必要です。メールやLINEのやり取り、プレゼントや金銭の受け渡し、結婚を前提とした発言が録音されていれば有効です。


また、相手が既婚者である場合、交際が配偶者に知られれば、逆に相手の配偶者からあなたが慰謝料請求される可能性もあるため、慎重な判断が必要です。


このように、慰謝料を請求するかどうかは、得られる可能性のある金額と法的リスクを考慮して、冷静に判断する必要があります

まとめ

「離婚して結婚する」と言われたのに約束が破られたという状況は、精神的に大きなダメージを伴うものです。しかし、法的に慰謝料を請求できるかは、交際相手の言動や交際期間など、様々な事情によって判断されます。


悩んでいる方は、まずは状況を客観的に整理し、証拠の有無を確認した上で、弁護士に相談することをおすすめします。EKAI法律事務所では、このような複雑な男女問題についても丁寧にご相談をお受けしています。

ご相談はこちらから
トピックス一覧へ戻る