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家庭内別居は離婚の理由になる?知っておきたい法的な論点と注意点

夫婦として同じ家に暮らしているけれど、会話もなく生活は完全に別。いわゆる「家庭内別居」は、近年離婚相談でよく聞かれるテーマです。物理的な別居と違い、同居を続けながら婚姻関係を実質的に終えているこの状態に、法的な意味はあるのでしょうか?この記事では、家庭内別居中に離婚を検討する際に押さえておきたい法的論点や実務上の注意点を、弁護士視点でわかりやすく解説します。

家庭内別居でも「別居」として評価される可能性がある

民法770条1項5号は、「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合には、裁判上の離婚を認めています。長期間の別居は、この重大な事由に該当する典型例と解されていますが、家庭内別居であっても、その実態によっては同様に該当すると判断されることがあります。
裁判所は、単に同居しているか否かという形式面ではなく、夫婦関係が実質的に維持されているかどうかを総合的に判断します。以下のような事情は、婚姻関係の破綻を裏付ける要素として重視される傾向にあります。



  • 日常的に会話や交流がない

  • 性的関係が長期にわたり存在しない

  • 家計が完全に分離されている

  • 寝室や生活空間を完全に分けている

  • 冠婚葬祭などの家庭行事にも共同で参加しない


  • これらの事情が認められる場合、たとえ同一の住居内で生活していても、実質的な「別居」と評価され、離婚原因として取り扱われる可能性があります。
    もっとも、同居しながらも最低限の会話が交わされている場合や、家計や育児を引き続き共同で担っているような状況であれば、実質的な「別居」とまではいえず、婚姻関係の破綻とまでは認められないこともあります。
    なお、家庭内別居は形式上は同居状態が継続しているため、客観的には通常の同居と明確に区別することが困難であり、直ちに「別居」と評価することが難しい場合が多い点には十分な留意が必要です。

    家庭内別居中でも婚姻費用分担請求は可能

    形式上の婚姻関係が続いている限り、家庭内別居中でも夫婦間の扶養義務は消えません。収入差がある場合、収入の高い側は低い側に生活費(婚姻費用)を分担する義務があります。支払われない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることが可能です。ただし、DVや不貞行為などで家庭内別居の原因を作った側が費用請求をする場合、信義則違反として制限される可能性があります。

    家庭内別居中の不倫で慰謝料請求はできる?

    配偶者が不倫(不貞行為)をした場合、不倫相手や配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
    しかし、家庭内別居中の不倫では、慰謝料が認められないケースもあります。
    ポイントは、不倫が行われた時点で夫婦関係がすでに「破綻」していたかどうかです。裁判例では、すでに夫婦関係が実質的に破綻していた場合、その後の不倫は法的な権利侵害とはされず、慰謝料請求は原則として認められません。
    なお、家庭内別居とは、同じ家に住みながらも夫婦としての関係が冷え切っている状態ですが、形式上は同居が継続しているため、客観的に破綻を立証するのは難しいとされています。

    財産分与と家庭内別居の関係

    家庭内別居中であっても、婚姻期間中に得た財産は基本的に夫婦の共有財産とされ、離婚時には原則として2分の1ずつに分けられます。ただし、家庭内別居の開始時点が実質的な共同生活の終了と評価されると、それ以降に形成された財産は分与対象から除外される可能性があります。長期間の家庭内別居では、家計や貯蓄が完全に分かれているケースもあり、名義に関わらず実質的な寄与度に応じて配分が調整されることもあります。

    悪意の遺棄とみなされるリスク

    家庭内別居中の行動によっては、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)と評価されることもあります。たとえば、一方の配偶者が正当な理由なく生活費の支払いを停止したり、意図的に無視や拒絶を続け、実質的に配偶者を棄て置いたと評価されるような場合です。このような行為が継続すると、離婚の法的理由となるばかりか、慰謝料の支払いや親権争いにおいても不利になる可能性があります。

    有責配偶者からの離婚請求は基本的に難しい

    家庭内別居の原因が一方の不貞やDVなどであった場合、その「有責配偶者」からの離婚請求は原則として認められません。裁判例でも、一定の条件(別居期間が長期に及ぶ、未成熟の子がいない、相手配偶者に著しい不利益がない)を満たす場合に限り、有責配偶者の離婚請求が例外的に認められるとされています。ただし、この条件は非常に厳格で、通常の家庭内別居では適用が困難と考えられます。

    子どもの監護や親権への影響

    家庭内別居中は形式上共同生活が続いているため、監護者が誰かが見えにくくなりがちですが、実際にはどちらが育児の主たる担い手であるかが、離婚時の親権・監護権判断に影響します。育児の様子を日記や記録に残しておくことは、今後の争点を見越した重要な準備になります。

    まとめ

    家庭内別居は、一見すると「まだ離婚に至っていない状態」ですが、法的には十分に婚姻関係の破綻を主張できる可能性があります。重要なのは、夫婦関係の実質的な有無と、それを裏付ける証拠です。生活費の記録、交流の有無、家事・育児の実態などを丁寧に記録しておくことで、将来的な調停や裁判の際に自分の立場を有利に保つことができます。


    同居を続けながら離婚を見据えるのは精神的にも負担が大きいものです。法的リスクを正しく理解し、早めに弁護士に相談することで、安心して前に進む準備ができます。EKAI法律事務所では、家庭内別居に関するご相談も丁寧に対応しています。まずはお気軽にお問い合わせください。

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