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未払い養育費を確実に回収するための強制執行とは?弁護士が教える方法<預貯金の差押え>

養育費は、子どもの健やかな成長を支えるために非常に重要なものです。
しかし、相手方が養育費を支払わない場合、生活が苦しくなるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
未払い養育費の問題は、子どもの生活を守るために迅速な対応が求められますが、特に「預貯金の差押え」は、確実かつ効率的な回収手段として有効です。
本記事では、預貯金の差押えの具体的な手続きとポイントについて解説します。
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預貯金の差押えとは?

預貯金の差押えは、相手方の銀行口座の残高から未払いになっている養育費を直接回収する方法です。給料の差押えと並んで非常に効果的な手段とされており、実務上も多くみられます。

預貯金の差押えの流れ

以下、流れとポイントについて詳しく解説します。

1.債務名義を取得する

預貯金を差し押さえるには「債務名義」が必要です。債務名義とは、養育費の支払い義務が明記された正式な書類です。具体的には公証役場で作成する公正証書(執行認諾文言の記載があるもの)や家庭裁判所で行われる家事調停によって作成される調停調書、調停が成立しなかった場合に裁判所が判断を下す審判調書などがあります。(債務名義については総論編で詳しくご紹介しています)。
子どものための費用である養育費を回収する目的があるとはいえ、差押手続きは相手の財産への侵害を伴う強力な手続きですので、当事者間で作成した合意書や覚書では進めることはできません。上記のような法的効力のある債務名義を取得してはじめて法的に差押えが可能となるのです。

2.相手方の銀行口座情報を把握する

預貯金を差し押さえるには、債務者が利用している銀行名や支店名などの特定が不可欠です。ただ養育費回収の場面では離婚して長期間が経過しているようなケースも多々あり、これらの情報が不明な場合も少なくありません。
そこで、有効となる手段としては、法律上以下のような制度があります。
• 財産開示手続
• 第三者(銀行等の金融機関)からの情報取得手続
• 弁護士会照会(銀行等の金融機関への照会)
これらの制度を適切に活用することで、確実な差押え・養育費回収につなげることができます。

3.裁判所への申立て

必要書類を整え、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に「債権差押命令申立書」を提出します。申立時には収入印紙代や郵便切手代を裁判所に納める必要があります。
なお、この申立にかかる費用の一部については差押手続きがうまくいけば回収することができます。

4.差押命令の発令・送達

裁判所が申立てを審査し、適法と認めた場合に差押命令が発令され、債務者である相手と第三債務者である対象となる銀行にそれぞれ差押命令が送達されます。
順番としては第三債務者への送達が先になります。これが完了すると差押命令の効力が発生し、
この時点で相手が対象銀行で保有している口座は凍結されます。
命令を受領した対象銀行は以下の事項を記載した陳述書を、命令を受け取った日から2週間以内に裁判所と債権者に双方に提出しなければなりません。
① 差押えに係る債権の存否【実際に相手に給料を支給しているか否か】
② 差押債権の種類・額【給料や賞与の金額】
③ 弁済意思の有無
④ 弁済範囲、または弁済しない理由
もし上記①から④について故意または過失によって陳述をしなかった,あるいは不実の陳述をしたような場合には,民事上の賠償責任を問われる恐れがあります。
銀行への送達完了後に債務者へも差押命令が発送され、送達された日から1週間を経過すると差し押さえた口座から直接養育費を取り立てることができるようになります。

5.回収(取立て)

債務者への差押命令送達から1週間後、債権者は銀行に対して預金の引き渡しを請求できます。しかし相手方が養育費以外に借金等の債務を負担しており、別の債権者からも差押えを受ける可能性も考えられますので、他の債権者との競合を避けるためにも速やかに取り立てを行うことが重要です。

預貯金の差押えのメリットと注意点

メリット
– 迅速かつ確実な回収
銀行口座から直接回収ができるため、相手の口座情報を把握した上で、そこに一定程度の残高さえあれば、まとまった金額の回収ができます。
– 相手との接触不要
他の強制執行手続きにも共通しますが、手続きの過程で相手方と直接交渉する必要がないため、精神的な負担が軽減される傾向にあります。

注意点

– 相手方の口座情報が不明な場合は実施不可
繰り返しにはなりますが、銀行名や支店名などの情報が特定できないと差押えはできません。
– 口座残高による限界
預金残高をそのまま回収して未払いの養育費に充てる手続きのため、既発生の養育費の限度でしか回収はできず、将来発生する養育費を前もって預貯金から回収することはできません。
また、差押えの時点で口座残高が未払養育費の金額に満たない場合、一部しか回収できない可能性があります。逆に口座の残高が未払養育費の金額を超えていたとしても、回収できる範囲は未払養育費の額が上限になります。
– 迅速な取り立て対応
差押命令発令後は他の債権者と競合するリスクがありますので速やかに取り立て手続きを行いましょう。
– 1度取り立てた口座から再度回収することは難易度が高い
1度でも自分の口座のお金を差し押さえられ養育費回収に充てられた債務者は、その口座からお金を抜くことを考えるのが通常なので、一般的に同一口座への2度目以降の差押は成功率が下がってしまう傾向にあります。
– 専門的な知識・手続きが必要
申立書の作成から必要書類の収集など、裁判所へ申立てを行うには専門知識が求められます。

預貯金の差押えのまとめ

① 預貯金の差押えは相手の銀行口座情報の把握が鍵になります。口座情報が特定できない場合、預貯金の差押えは実行できないため、事前に相手方の財産状況を把握しておくことが重要になります。
② 相手の口座に残高さえあれば、まとまった金額の回収が可能になります。
取立てができる金額は残高の範囲に限定されます。また、既発生の養育費の限度でしか回収はできず、将来発生する分を前もって回収することはできません。
④ 申立て、そして回収手続きには複雑な手続きが存在するため、専門的な知識が必須です。
⑤ 差押命令が発令された後、他の債権者と競合する危険性もあるため速やかな取り立てが求められます。
⑥ 一度差し押さえた口座を再度差し押さえることができたとしても、警戒されてお金を抜かれたり解約されたりして空振りに終わってしまうといった事態も少なくないため注意が必要です。

養育費を払ってもらえず、預貯金の差押えも検討されている場合には、弁護士に相談されることを強くお勧めします

未払い養育費は放置せずに法的手段で確実に回収することが重要です。「預貯金の差押え」はその中でも非常に有効な方法ですが、対象となる銀行の口座情報の把握をはじめ、債務名義などの必要書類の取得や申立て・取立て手続きにおける厳格な期間制限への対応など、専門的な知識や正確な情報収集が求められます。
そのためご自身で対応しようとすると、制度の複雑さや相手方の対応によって、納得のいく結果が得られないケースも少なくありません。
弁護士にご相談いただければ、状況に応じた適切な対応方法をご提案し、手続きの代理や必要書類の作成も含めて一貫したサポートを受けることが可能です。
大切なお子さまの生活を守るためにも、まずは一人で抱え込まず、法律の専門家にご相談されることをおすすめいたします。お困りの場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。
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