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未払い養育費を確実に回収するための強制執行とは?
弁護士が教える方法<動産執行>

未払い養育費の問題は、子どもの生活や将来に直結する重大な課題です。支払いが滞った場合、裁判所を通じて相手の財産を差し押さえ、強制的に回収する「強制執行」が有効な手段となります。


その中でも「動産執行」は、現金や高価な家財など、動産を対象とした強制執行の方法です。


ここでは「動産執行」の流れや有効性、注意点などを弁護士の視点から解説します。

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動産執行とは?


動産執行とは、未払い養育費の回収を目的に、債務者(=養育費を支払う側)の所有する動産を差し押さえ、売却して得た代金から未払い分を回収する手続きです。対象となる動産の種類は、現金、貴金属(宝石やアクセサリー類)、高額家電など多岐にわたります。


ただ、動産は一般に不動産等と比較すると経済的価値が低いため、動産を売却して得た代金から十分な回収を図ることは困難であると考えられています。また、通常は債務者の住所にある物は債務者の所有物と推定されますが、同居人がいるような状況などでは所有者の特定が困難となることも少なくありません。


しかし、債務者の住所や居所(店舗や事務所も含みます)など、実際の居場所に対して強制的に立ち入る手続のため債務者に対して極めて強い心理的な影響を与えることができます。差し押さえるべきものがなかったとしても、その後に和解交渉を申し出る、あるいは、任意の返済に応じるなどして養育費の未払いの解消に繋がることもあります。


そのため動産執行は債務者にとって使用価値の高い動産類を差し押さえて債務者に精神的苦痛を与え、養育費の支払いを間接的に強制する目的で利用されることが多い傾向にあります。


動産執行の流れ


具体的な流れは以下のとおりです。




1. 債務名義の準備


動産執行は、管轄の地方裁判所に申立てをして行います。この申立てにあたっては、裁判所へ申立書を提出することになりますが、あわせて必要になるのが「債務名義」です。


債務名義とは、強制執行によって実現されるべき給付請求権の存在と範囲を表示した文書のことで法律により執行力が認められたものをいいます。具体的には公証役場で作成する公正証書(執行認諾文言の記載があるもの)や家庭裁判所で行われる家事調停によって作成される調停調書、調停が成立しなかった場合に裁判所が判断を下す審判書などがあります。(債務名義については総論編で詳しくご紹介しています)。


動産執行は、相手の財産に対して強制的に権利を実現させる、法的に強力な手続きであるため、その実行にあたってはこれらの債務名義が必要不可欠とされています。そのため、合意書や覚書のみでは申し立てることができないことに注意が必要です。



2. 裁判所への申立て


動産執行を行うためには通常、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申立てを行わなければなりません。この申立てにあたっては、裁判所へ申立書を提出することになりますが、対象にする動産自体の特定は不要です。動産執行は原則として相手の自宅や事業所にある動産全てが対象(生活必需品や家財道具、仕事に不可欠な道具など一定の物品は除く)となるからです。


ただし、裁判所も対象となる動産の在処すら分からなければ差し押さえることはできませんので、相手の住所や動産の所在場所についてはきちんと把握しておく必要があります。


上記の債務名義などの必要書類とともに申立書を提出すると、裁判所がそれらの書類の内容を審査し、適法と判断された場合には「命令」が出され、実際の回収に向けた手続きが開始することになります。



3. 執行官による差押え


裁判所が差押命令を発令すると、裁判所から選任された執行官が、相手の居宅等に出向き、動産を差し押さえます。現場で現金や価値の高い動産があれば、その場で差押えが行われます。


なお、債権者自ら執行の現場に立ち会うこともできますが、あくまで差押目的物の選択は執行官の裁量に委ねられていますので、債権者も債務者も具体的な指示を出すことは禁止されています。



4. 動産の売却(換価)と配当


差し押さえた動産は、基本的には執行官が占有・保管します。


その後、換価(=お金に換えること)手続きに移行し、競り売りや特別売却、委託売却、入札方式などの方法で売却され、売却代金から未払い養育費に充当することができます。



  • 競り売り:競り売り期日において、買受申出額を競り上げる方法で行う売却

  • 特別売却:刀剣類など取り扱いに一定の資格が必要な特殊な物品を商人らに売り渡す方法

  • 委託売却:骨董品や牛馬等、専門的な業者に委託をした方が適切かつ迅速に売却が進む場合に用いられる方法

  • 入札方式:貴金属などの転売が容易かつ需要の高い物品について、一般の方々が参加して入札期日に入札書を差し出す方式での売却


売却方法については、執行官が裁量によって選択しますが、一般的に競り売りによることが多いとされています。


なお、売却により換価された後、差押え範囲を超えて残額がある場合には債務者に返還されます。


動産執行の特徴と注意点


差押禁止財産

生活必需品や債務者の仕事に欠かせない道具など、法律上差し押さえが禁止されている動産もあり、実際に換価できる財産が限られる場合があります。



執行官の立ち入り効果

動産執行は、執行官が自宅等に立ち入ることで心理的な圧力となり、任意の支払いを促す効果も期待できます。



事前調査の重要性

差押え対象となる動産の有無や所在を事前に把握しておくことが、動産執行成功の鍵です。財産開示手続を活用した財産調査も有効です。



他の強制執行手続きとの比較

動産執行は現金や高価な動産が存在する場合に有効ですが、給料や預金口座の差押え(債権執行)の方が、回収効率が高いケースも多いため、動産執行を「最後の砦」と位置付けて、状況に応じて最適な手続きを選択することが重要です。


動産執行のまとめ



  • ① 対象となる個々の動産の特定までは不要

    動産執行は原則相手の自宅や事業所にある動産全てが対象。ただし、債務者の生活への過度な干渉を避けるために法律上一定の動産(生活必需品や家財道具など)の差押えは禁止されている。


  • ② 債務者の住居所や動産の所在場所の特定は必須

    実際に立ち入る執行官のために、債権者の側で相手の住所や動産の所在場所をきちんと把握し、特定する必要がある。


  • ③ 回収の難易度が高い

    不動産などと比較すると相対的に価格の低い傾向にあり、物品が実際に債務者の所有物か特定することが困難なケースも多い。


  • ④ 間接的に養育費支払いを強制

    実際の居場所へ強制的に踏み込まれ、家の中を探し回られた末に使用価値の高い動産類を差し押さえられることはかなりの圧迫になるため、その後に和解交渉や任意支払いを申し出てくるなどして養育費の未払い解消に繋がることもある。


  • ⑤ 養育費回収の最終手段としての「動産執行」

    まずは一般的に回収可能性の高い預貯金や給料などから回収することを検討し、目ぼしい財産が見当たらない場合の手段として検討するのが望ましい。


  • ⑥ 法的要件を満たす正確な対応が不可欠

    動産執行は強力な法的手段である一方、相手の財産権を制限するため、申立準備の段階から回収まで厳格な法的ルールを遵守し、慎重かつ的確な手続きが求められる。

養育費を払ってもらえず、動産執行も検討されている場合には、弁護士に相談されることを強くお勧めします


動産執行は、相手の居所等に立ち入るなどして物品を差し押さえ、換価することをもって養育費の回収に充てる非常に強力な手続きです。しかし一方で、裁判所の命令を得るためには、適法な債務名義の準備と厳格な申立手続が必要となります。



そのため、弁護士に依頼することで、申立書作成や裁判所とのやり取りまですべて法律の専門家に一括して任せられますので、適切な手続きで失敗リスクを回避することができます。



さらには、相手方との直接交渉やトラブルを回避できますので弁護士が状況を丁寧に整理し、最適な回収方法を一緒に考えることで、養育費の回収につながる可能性が高まります。



「手続きの流れがわからない」「自分のケースが対象になるのか不安」といったお悩みをお持ちの方は、まずは一度、法律の専門家にご相談ください。

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