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養育費を受け取るために相手の情報を取得する方法:シングルマザー必見<預貯金の情報取得の方法と注意点>

離婚した後、元夫からの養育費が支払われず、困っている方は少なくありません。


養育費は子どもの健全な成長を支えるための費用ですので、場合によっては強制執行を検討する必要があります。ただ相手がどのような財産をもっているかを把握していなければ、差押えをして養育費を回収することはできません。


しかしながら、相手の預貯金や勤務先が分からなくても諦める必要はありません。

ここでは相手の財産を調査する手続きである「第三者からの情報取得手続き」について詳しく解説します。


養育費回収のための情報取得手続


2020年の民事執行法という法律の改正により、「第三者からの情報取得手続」という制度が新設され、これを利用して、裁判所を通じて相手方の財産情報を取得することができるようになり、養育費回収の実効性が大きく高まりました。


どんな情報が取得できる?


取得できる情報には以下のものがあります。


  • -預貯金情報

  • 金融機関に照会をすることで、相手方がどの金融機関(銀行・信用金庫・JAなど)に口座を持っているか、支店名や残高まで特定することができます。複数の金融機関を同時に照会することも可能です。これらの情報を得ることによって預貯金の差押えが可能になります。


  • -勤務先情報

  • 市区町村や年金事務所に照会し、相手方の給料(または報酬・賞与)の支払者の存否や氏名・住所等の情報を取得できます。これにより給料の差押えにつなげることができます。


  • -不動産

  • 法務局に照会して、相手方名義の不動産を特定するに足りる事項の情報を取得できます。土地の場合には所在や地番など、建物の場合は所在・家屋番号などを取得でき、これにより不動産執行の実施を検討できるようになります。


  • -振替社債等

  • 証券会社等に照会することで振替社債等(上場株式、投資信託受益権、社債など)は証券会社や証券保管振替機構に照会できます。振替機関等の情報が得られれば、振替社債等の差押えも可能になります。


    養育費を受け取る権利があるのに、「相手方が支払いをしない」、「連絡が取れない」、「財産がどこにあるか分からない」 といった状況下で有効なのが「第三者からの情報取得手続」です。この手続きを使えば、銀行や市町村、年金事務所など第三者から、相手方の預貯金口座や勤務先などの情報を裁判所経由で取得できます。


    この記事では特に「預貯金の情報取得」について詳しく解説します。


    預貯金の情報取得手続きとは?


    預貯金の情報取得は、申立人(=養育費を受け取る側)が、対象とする第三者(=金融機関等)を選び、裁判所に申立てをすることで、相手方がその金融機関に口座を持っているか否か、持っている場合、その口座にいくらお金が入っているかといった回答を得ることができる手続きです。


    そのため、養育費の回収を目指して財産を差し押さえたいとき、財産調査の方法として非常に有効な制度です。


    さらに、基本的には日本国内に支店を有する銀行・信用金庫等であれば、どこでも対象とすることができ、また、複数の金融機関を同時に照会することも可能ですので、費用の折り合いさえつけば日本全国の全ての金融機関から回答を得ることもできるのです。


    預貯金の情報取得手続きの流れ


    以下で具体的な流れを説明します。


  • 1. 債務名義の取得

  • 預貯金の情報取得には「債務名義」が必要です。債務名義とは、養育費の支払義務が明記された正式な書類です。具体的には公証役場で作成する公正証書(執行認諾文言の記載があるもの)や家庭裁判所で行われる家事調停によって作成される調停調書、調停が成立しなかった場合に裁判所が判断を下す審判調書などがあります(債務名義については総論編で詳しくご紹介しています)。


    子どものための費用である養育費を回収する目的があるとはいえ、情報取得手続きは相手に気づかれることなく銀行口座の情報を把握することができる強力な手続きですので、当事者間で作成した合意書や覚書では進めることはできません。上記のような債務名義を取得してはじめて適法な申立てが可能となるのです。



  • 2.情報取得手続の申立て

  • 債務名義を基に申立書を作成し、債務者の住所地を管轄する地方裁判所へ提出します。この際、申立手数料としての収入印紙代(通常1,000円程度)や執行費用の予納金(第三者1名のみなら5,000円程度、1名追加ごとに4,000円程度を加算)を裁判所に納める必要があります。


    また、申立書面には当事者である申立人・債務者・第三者(対象とする金融機関等)の『氏名(名称)・住所』、さらには第三者が口座の名義人と同一人であることを確認できるように『債務者の特定に資する情報』を記載します。


    それに加えて、以下の情報取得手続き特有の要件を満たす必要があります。


    要件1:実施の必要性


    情報取得手続きは債務者のプライバシーに属する財産状況を開示するものですので、以下のA又はBいずれかの要件を満たさなければなりません。


    A.強制執行(又は担保権実行)における配当等の手続(申立日より6か月以上前に終了したものを除く)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったこと


    (例:実際に債務者の財産を差し押さえたものの、配当等の手続きにおいて未払い養育費の一部しか回収ができなかった場合)


    B.知れている財産に対する強制執行(又は担保権実行)を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済が得られないことの疎明があったこと


    (例:申立人側で把握している財産からは未払い養育費全額の回収見込みがない場合)


    なお、上記Bの要件の場合、申立書とともに財産調査結果報告書という、申立人が知っている財産がどれだけ存在するのか,そしてそれらの財産に対する強制執行を実施しても,請求債権の完全な弁済を得られないことを示す書面の提出が求められます。



    要件2:執行障害


    債務者が破産等の倒産手続が開始し、それが終了していない場合には情報取得手続きの申立てをすることができません。



    申立書の提出を受けた裁判所は、上記のような要件を満たしているかを職権で審理・判断し、適法と認めた場合には情報提供命令を発することとなります。


    情報取得手続きは相手の財産を調べる有効な手段である一方、相手に知られることなく口座情報を取得出来てしまう非常に強力な手続きでもあるため、法的には厳格なルールが定められており、慎重な対応が求められるのです。



  • 3.裁判所が第三者(金融機関)に照会

  • 裁判所は適法な申立てがされたと判断すれば、金融機関に対して情報提供命令を発令します。


    なお、財産隠し防止の観点から債務者には情報提供命令は送達されませんが、申立人が情報を取得した時点からおよそ1か月後に債務者にも通知されるため、情報取得後、それまでに迅速に差押えを行わなければ預貯金を引き出されるリスクがあります。



  • 4.情報の開示

  • 情報の提供を命じられた第三者は、申立書に記載のある債務者の特定に資する事項から、口座名義人と債務者が同一人である否かを判断し、債務者名義の口座の有無・残高等の情報を裁判所へ提供し、同時に申立人にも開示されます。


    なお、ここで開示されるのは、あくまで発令時点での口座情報になりますので、その後に預貯金差押えに移行するまでの間に口座の解約や残高の増減の可能性があります。



  • 5.預貯金差押えの申立て

  • 申立人は取得した情報をもとに、預貯金の差押えを進めることになります。決して情報取得手続きそのものは差押えの効力を生じませんので、注意が必要です。


    また、上記3でも述べた通り、情報を得られた時点からおよそ1か月後には債務者にも通知がいってしまうので、情報取得後は速やかに差押え手続きに移行することが大切です(詳しくは預貯金差押え編でご紹介しています)。


    預貯金の情報取得手続きの特徴・注意点


    特徴


  • – 相手方の預貯金口座が分からなくても、裁判所を通じて情報が取得でき、未払い養育費回収のために預貯金差押えが現実的に可能になります。

  • – 申立て先の金融機関は銀行・信用金庫等で、日本国内に支店のある外国銀行も含みます。複数の金融機関に対して同時に照会することも可能です。

  • – 預貯金の情報取得手続き自体では相手の預貯金を差し押さえることはできません。あくまで差押えの準備段階に当たります。

  • – 債務者が差押えの準備に動いていることを察知してしまうと口座からお金を抜くなど財産隠しに動くことが容易に想像できます。そのため、密行性の観点から、情報提供命令が発令されても債務者には送達がされません。


  • 注意点


  • – 預貯金の情報取得手続きは、債務者の住所地を管轄する裁判所にて実施されるため、原則として債務者の現住所を調査・把握してからでないと利用できません。それに加えて、情報提供を命じられた金融機関は、債務者の『生年月日・性別・現住所・旧住所』などの情報から、口座名義人と債務者が同一人であるかを判断するため、現住所のみならず過去の旧住所を遡れるだけ申立書に記載しておくと、より情報が得られやすい傾向にあります。

  • – 申立ての際には、金融機関の数に応じた費用(予納金)を納める必要があります(第三者1名のみなら5,000円程度、1名追加ごとに4,000円程度を加算)。

  • – 申立人が情報を得られた時点からおよそ1か月後に債務者にも通知がされてしまいます。そのため、情報取得後、相手方に通知がされるまでの間に、迅速に差押えを行わないと預金を引き出されるリスクがあります。

  • -仮に、情報取得後の差押手続きによって債務者の預貯金から未払い養育費の一部を回収できたとしても、一度差押えを経験した債務者が、その後も無警戒に口座を利用し続けるとは考えにくいです。そのため、複数回にわたって預貯金の情報取得手続きを申立てるのは得策とは言えず、可能な限り1度の申立てで多くの金融機関から情報取得をするべきといえます。

  • – 開示されるのは、あくまで第三者が情報提供命令を受領した時点での口座情報となりますので、その後に預貯金差押に移行するまでの間に口座の解約や残高の増減の可能性があります。

  • 預貯金の情報取得手続きのまとめ


  • ① 相手の保有する預貯金口座が分からなくても、「第三者からの情報取得手続」を利用すれば財産隠しに対処しつつ、裁判所を通じて情報を取得できる。

  • ② 預貯金の情報取得により、口座の有無・支店名・残高を特定できる。複数の金融機関も同時照会可能。

  • ③ 申立てには、債務名義(公正証書・調停調書・審判調書など)の取得(合意書や覚書だけでは不可)や、厳格な期間制限への配慮が必要。

  • ④ 金融機関から得られた回答を見て、残高のある銀行口座を対象にした差押えを進めることが可能。情報取得手続き自体では差し押さえの効力は生じない。

  • ⑤ 対象とする金融機関1件ごとに費用(予納金)が発生する(第三者1名のみなら5,000円程度、1名追加ごとに4,000円程度を加算)。

  • ⑥ 預金を引き出されるリスクがあるため、情報取得後、約1か月以内(債務者に通知が行く前)に差押えを実施するのが極めて重要。

  • 預貯金の情報取得は、原則として一度で十分な情報を得る必要がある。2回目以降は警戒されてしまい、空振りになる恐れが大きい。

  • 「相手の財産を差し押さえて養育費を回収したいけど、どんな財産を持っているか分からない」という方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください>


    養育費を払ってもらえない場合に、差押えは未払いの養育費を確実に回収するための非常に有効かつ強力な法的手段です。しかし、実際に差押えを実行するためには、対象となる財産を把握していないと申し立てることができません。こうした場面で大変役立つのが「情報取得手続」です。


    しかし、密行性が高いとはいえ、情報取得後、相手に通知が行くまでの約1か月の間に差押えを実施しなければならない等、財産開示などの他の財産調査手続きと比較しても、特にシビアな期間制限が設けられています。


    情報取得手続は、法改正により養育費の回収を強力に後押しする制度ではあるものの、申立書の作成や必要書類の準備、迅速な差押えなど、専門的な知識と経験が求められます。


    ただ、弁護士に依頼いただければ、複雑な手続きを全て代理して行うため、スピーディーな手続きが可能です。


    当事務所では、養育費回収の豊富な実績とノウハウを活かし、依頼者様の状況に合わせた最適なサポートを提供しています。


    「相手の預貯金や勤務先が分からない」「手続きが難しそう」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたとお子様の権利を守るため、全力でサポートいたします。

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