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未払い養育費を確実に回収するための強制執行とは?弁護士が教える方法<総論>

養育費が支払われない場合、親として子どもの生活を守るためには、法的手段として強制執行を検討することが重要な場合があります。
「強制執行」という言葉を耳にしたことはあったとしても、実際に何ができるのか、どのような手続きが必要なのか、具体的なイメージが持てない方も多いのではないでしょうか。
強制執行とは、裁判所を通じた法的手続きにより、相手に対して養育費の支払いを実現させるための有効な方法のひとつです。
これまで養育費をきちんと支払ってこなかった相手に対しても、適切な準備と手続きを行えば、給与や預金口座などの財産を差押えることで、養育費の支払いを確保することができます。
もし現在、養育費の未払いでお悩みの方がいらっしゃれば、確実な回収を目指すための「強制執行」という選択肢について、わかりやすくご説明いたします。
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そもそも強制執行とは?養育費を払わない相手にも有効?

改めて、強制執行とは、債権者(=養育費を受け取る側)の申立てによって、裁判所が債務者(=支払う側)の財産を差押え、換価(お金に換えること)して、強制的に債権者への支払いを実現させる法的手続きです。まさに、債権回収の「最終手段」といえるでしょう。
養育費を支払ってもらうことも、この債権回収の一つの場面です。そのため、養育費の支払いを拒んだり、長期間にわたって滞納している相手に対しては、この強制執行の制度が非常に有効な選択肢となります。
「言っても支払ってもらえない…」そんな時こそ、泣き寝入りせず、法律に基づいた手段で養育費の回収を目指すことが大切です。

どんな財産が差押えられる?

差押えの対象となる財産には、銀行口座の預貯金、給与、不動産(土地・家屋など)、自動車など様々なものがあります。
ただし、差押えには申立費用が必要になり、対象財産によって金額も大きく異なります。中でも、不動産や自動車を差押える場合は、手数料が数万円から数十万円に及ぶこともあり、費用負担が非常に大きくなるケースもあります。
こうした背景から、費用対効果の観点では、不動産や自動車よりも、銀行口座の預貯金や勤務先から支給される給与を差押えの対象とするのが、養育費回収においては一般的です。
これまで養育費を支払ってこなかった相手方に対し、裁判所を通じて強制執行の申立てを行うことで、相手の銀行口座や給与を差押え、養育費の支払いに充てることが可能となります。
養育費の支払いが滞って困っている方や、請求しても応じてもらえない方は、このような法的手段を通じて、確実な回収を図ることができます。

養育費を払ってもらえていない人であれば誰でもできるものなの?

強制執行を行うためには、管轄の地方裁判所に申立てを行う必要があります。この申立てにあたっては、裁判所へ申立書を提出することになりますが、あわせて必要になるのが「債務名義」です。
債務名義とは、強制執行によって実現されるべき給付請求権の存在と範囲を表示した文書のことで法律により執行力が認められたものをいいます。
債務名義には、主に以下のようなものがあります:

・確定判決(訴訟による場合)
・(仮執行宣言付の)支払督促
・和解調書
・調停調書
・審判調書
・公正証書

このうち養育費に関しては、家庭裁判所で行われる家事調停によって作成される「調停調書」や、調停が成立しなかった場合に裁判所が判断を下す「審判調書」、または公証役場で作成する「公正証書」が、実務上よく用いられる債務名義です。ただし、公正証書については、執行認諾文言(「金銭の支払いに関し、強制執行に服する旨」が記載されていること)が必要です。
強制執行は、相手の財産に対して強制的に権利を実現させる、法的に強力な手続きであるため、その実行にあたってはこれらの債務名義が必要不可欠となります。
そして、これらの債務名義などの必要書類とともに申立書を提出すると、裁判所がその内容を審査し、適法と判断された場合には「命令」が出され、実際の回収手続きが開始することになります。

強制執行をする上で注意すべきこととは?

1 相手の就業場所や財産状況を把握しておく


大前提として、相手がどのような財産を持っているかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
というのも、強制執行を申し立てる際には、原則として差押えの対象となる財産を特定する必要があるためです。
たとえば、「相手がどこに勤めているのか」「どこの銀行に口座を持っているのか」といった情報が全くわからなければ、差押えの手続き自体を進めることができません。
また、離婚から時間が経っている場合には、以下のような変化が起きているケースも少なくありません:
• 相手が転職して勤務先が変わっている
• 銀行口座を新たに開設または解約している
• 婚姻中に保有していた財産をすでに処分している
このような状況を踏まえると、強制執行に先立ち、最新の財産情報を再度調査することが非常に重要です。
その際に有効となる手段としては、以下のような法的な情報取得制度があります:
• 財産開示手続
• 第三者からの情報取得手続(勤務先や銀行などへの照会)

これらの制度を適切に活用することで、確実な差押え・養育費回収につなげることができます。

2 相手に知られずに手続きを進める


養育費の回収において、すべての手続きに共通する重要なポイントは、いかに相手に知られずに手続きを進めるかという点にあります。
例えば、預貯金口座を差押えるための手続きを進めている最中に、何らかの理由で相手にその事実を知られてしまった場合、相手が口座から資金を引き出すなどして財産を隠してしまうおそれがあります。
特に、これまで養育費の支払いを怠ってきた相手であれば、そうした行動に出る可能性は高く、財産を確実に確保するためには、相手に気づかれないよう慎重かつ迅速に手続きを進めることが非常に重要です。
実際、秘密裡に手続きを行うことで、相手に先手を打たれることなく、確実に財産の差押えなどの強制執行に進むことが可能になります。

3 法律上、厳格な要件が求められている


強制執行とは、相手方の財産を差押えること等を通じて、養育費を回収する手続きです。確かに有効な手段ではありますが、相手の財産権を制限する手続きであるため、法的には厳格なルールや期間制限が定められており、慎重な対応が求められます。
我が国の憲法でも個人の財産権は尊重されるべきものと位置付けられており、強制執行においても法律上の配慮がなされています。そのため、制度の趣旨や流れを理解したうえで、適切に手続きを進めることが大切です。
たとえば、強制執行の申立ては、どこの裁判所に対しても自由にできるわけではなく、原則として「債務者(=支払う側)の住所地を管轄する地方裁判所」に対して申し立てる必要があります。
したがって、申立てに先立ち、相手の現住所を正確に調査・把握することが不可欠です。これは、実際に手続きを進める上での最初のステップとなります。

まとめ

• 養育費の支払いも債権の一種であり、相手が支払わない場合には強制執行によって回収することが可能です。
• 差押えの対象となる財産を特定するためには、相手の住所や勤務先、保有財産の情報を把握しておくことが前提となります。
そのためには、財産開示手続や第三者からの情報取得手続などを活用することが有効です。
• 強制執行を行うためには「債務名義」が必要不可欠です。
養育費の場合、家庭裁判所で作成される調停調書や審判調書、公正証書が代表的な債務名義に該当します。
• 手続きは法律上厳格に定められており、内容も専門的かつ複雑であるため、正確に進めるには専門知識が求められます。

養育費を払ってもらえず、強制執行も検討されている場合には、弁護士に相談されることを強くお勧めします


強制執行は、相手の財産処分の自由を制限し、法的強制力をもって養育費を回収する非常に強力な手続きです。その一方で、裁判所の命令を得るためには、適法な債務名義の準備と厳格な申立手続が必要となります。
「手続きの流れがわからない」「自分のケースが対象になるのか不安」といったお悩みをお持ちの方は、まずは一度、法律の専門家にご相談ください。
弁護士が状況を丁寧に整理し、最適な回収方法を一緒に考えることで、確実な養育費の実現につながる可能性が高まります。
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